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ある家庭教師の独り言

個人指導のジレンマ

 今さらの話だが、個人指導(家庭教師)のような1対1の指導のメリットは、生徒個人の特徴、レベルに合わせた指導ができるということだ。でもこのことは、デメリットにもなる。生徒に合わせることを意識しすぎると、本来目標とするレベルになかなか高まっていかないからだ。

 より生徒側に合わせれば、つまり、その時の生徒のレベルに合わせて問題を選択したり、生徒がつらいと思わないような分量に抑えたりすれば、そう無理をしないでも対処できるから、生徒は気分よく勉強ができるかもしれない。でもこれだと、目標に向かって学力が高まる、ということにはつながりにくい。

 一方で、より教師側に合わせれば、目標とするレベルから逆算して、今何をすべきかを考えて指導を行なうので、得てして、レベルも分量も、生徒が思っているものを上回ることが多く、つらい勉強となってしまうかもしれない。でもこの勉強についてきてくれるのであれば、学力は高まる。

 ということで、個人指導を行なっていると、生徒寄りで指導すべきか、教師寄りで指導すべきかで、ジレンマに陥るが、要は、そのバランスがとれた指導が、良い指導ということになるのだろう。でも、これがなかなか難しい。

 私の場合は、せっかく指導を受けてもらうのだからきちんと成果を出したい、という思いがふつふつと湧いてくるので ――― 別に恰好をつけているわけではなく、これは私の本能のような気がしている。そしてこの本能ゆえに、私はこの仕事に落ち着いたのだとも思っている。―――、教師寄りで指導を進めたいという気持ちが強い。なので、生徒にとっては大変なことも間々あると思う。

 でも教師寄りに指導すると言っても、有無を言わさず、こちらがやりたいことをやるというわけでは、もちろんない。目標とするレベルはこのくらいで、今の生徒の状況はこうで、だから目標に達するには、このくらいのペースで進まなければならない、といったことをきちんと話し、生徒に納得をしてもらった上で、指導を行なう。

 もちろん、理想ばかりを語っていても、当の生徒がやる気をなくしてしまったり、教師と生徒の信頼関係が壊れてしまっては、元も子もないので、その点には注意を払う。でもとにかく、生徒が楽だと思うレベル(難易度にしても分量にしても)でとどまらせてしまうことなく、少なくともその少し上のレベルのことは行なわせたい。本来進むべきペースではつらすぎるにしても、まずは半分の量から始めてみないかと提案するなど、何かしらの手は打って、少しでも上昇に向かわせたい。目標を達成したいなら、そして力を高めたいなら、やはりそうしたことは必要なので。

 究極の指導は、生徒が特につらいとは思わず、でもやるべき必要なことはやらせている、といったものなのだろう。その域に達するのはなかなか難しいと思うが、そこを目指して努力はしていきたい。そしてその域に至るまでは、ジレンマに悩みながらも、場合によっては反発を受けながらも、とにかく成果を出すということに主眼を置いて、指導をしていきたい。