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ある家庭教師の独り言

ネットの情報を鵜呑みにすると危険・・・受験勉強の落とし穴

 ウチに来る生徒の大半は、覚えるべき単語が覚えられていないのだが(そしてこれこそが英語が出来ない理由の筆頭)、最近来た生徒(浪人生)はそうではなく、非常によく覚えていた。実際チェックをしてみると、使っている単語集(シス単)はほぼ完璧に覚えられていた。
 
 もちろんこのこと自体は非常によいことだし、こういう根本の作業をしっかり行う生徒は伸びるので、頼もしい限りなのだが、この生徒の場合ちょっとやり過ぎだった。入試問題の全てを暗記で対処しようとしていたのだ。使っているという生徒の単語集を見ると、あまり頻繁には見かけない難単語が結構多く書き加えられている。入試過去問などで出くわした分からない単語を、基本的に書き抜いたそうだ。
 
 当然ながら英語の大学入試問題は、全てを覚えた知識のみで対処するのは無理だ。合格者だって全てを覚えている訳ではない。問題によっては推測で対処するし、そもそも知識よりも思考力を問う問題もある。特別な難単語を知っているよりも、長文のテーマに関する知識を知っていたから得点できたという問題もあるだろう(AI、ベーシックインカムなど、最近は市販の問題集に載っていないような新ネタも出題される)。
 
 単語だけに話を絞っても、やはり確実に暗記しておくべきものと、推測で対処すればいいもの(あるいは全く知らなくていいもの)があるが、その分かりやすい境目は、市販の単語集に載っているかいないか、と考えていいのではないだろうか。やはり書物として世に出ているだけあり、十分検証はなされており、自分の感覚としても、単語集に載っているものを覚えていれば、逆に言えば載っていないものは覚えていなくても、合格点は取れるだろうと思える。
 
 ではなぜこの生徒は、全てを暗記で対処しようとしたのか? 基本的に真面目だからというのと、過去問で知らない単語に出くわすととにかく不安だからというのに加え、Googleなどでの検索も影響したようだ。早慶等の難関大だと単語集に載っている2000くらいでは足りない、といった情報に圧倒されてしまったのだ。ちなみにこの生徒は宅浪ということあって、ネットの情報の影響は大きかった。
 
 ただ一般的な単語集を覚えれば十分と思っている私は、そんなに極端な情報が多く出回っているのかと思い、ズバリ「早慶 単語 何個覚える」で検索してみたところ、実際の早慶の学生が相談を受けるサイトが見つかった。そこではシス単で十分とか、ターゲット1900の1500くらいしか覚えなかった、などの意見が多く、私としてはやっぱりそんなもんだよね、という感じだった。
 
 このように同じ事柄を検索しても(必ずしも同じワードで検索した訳ではないが)、生徒は単語はたくさん覚えるべきという情報により意識が向かい、私は市販の単語集の分量で十分という情報により意識が向かった。そしてその意識に応じてそれぞれ真逆と言える結論を出した。まさに今はこういうことが起こるのだ。実際Googleは、過去の検索履歴などにより、同じワードで検索しても人によって検索結果が違うようだ。
 
 情報が増え過ぎたことも問題だ。ネット検索は本当に便利で有益で、私はかれこれ20年以上お世話になっているが、それなりのキーワードで検索すれば、いかにも上手くまとまったページが上位にきて、いくつかの情報を総合すれば、調べたいことの全体像をつかむことも可能だったように思う。でも少なくとも3年くらい前から事情が変わってきた。もうあまりにも情報が多くなって、細かな点にこだわったり、確かにそこだけ考えれば事実かもしれないけど、全体から見たらどうなんだ?というサイトが増え、以前よりむしろ全体像はつかみにくくなった気がする。
 
 いずれにしても、情報過多の時代と言われて久しいが、もはや今はそんな言葉では言い足りないくらいの状況になってしまった。少し前までは検索の仕方を上手にして、いかにいい情報を得るかがポイントだったが、今はそれだけでは大量の情報に埋もれてしまい、つまりはどういうことなんだ、何が一番のポイントなんだ、ということはつかめずに終わってしまうかもしれない。
 
 という訳で今や検索をしさえすれば、正しい情報、その人にとって最適な情報が得られるとは限らない。これまで以上に、何が重要か、何が本質かを見抜く人間自身の能力を高めなければならないし、検索結果にしっくりこないなら、やはり生身の人間にも相談し、総合的な観点から結論を下すことが必要だろう。