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ある家庭教師の独り言

なぜトーストはバターを塗った面が下に落ちるのか? 英語長文は小ネタの宝庫

 つい先日ちょっとしたテレビ番組で、「バターを塗ったトーストをテーブルから落とすと、なぜいつもバターの面が下になって(よりによって床が汚れるように)落ちるのか?」という疑問を、ある意味科学的に検証していた。この現象は決して偶然ではなく、必然性があるという。ポイントは、一般的なテーブルの高さが約70cmだということにあるようだが、詳しくは以下の通りだ。

 そもそも、トーストがテーブルから落ちる場合、テーブルの端からだんだんはみ出していく形で落ちるのが普通だ。そうするとトーストは、回転しながら落ちることになる。そして上述の約70cmの高さだと、ちょうど半回転(180度回転)したところで床に着くのだ。ちなみに、テーブルにトーストを置く場合、普通はバターのついた面を上にするため、それがちょうど半回転すると、バターの面が床に着くということになるのだ。

 なかなか興味深い話だが、実はこの話は元々知っていた。では何で知ったかというと、それは昨年のある高2生に見せてもらった、模擬試験の長文問題だ。その長文は、ある学校の授業で先生が生徒にエッセイの課題を出す、という設定になっていて、その課題の内容が、身近に起こる不運なこと(マーフィーの法則と称したりする)は、単なる偶然なのか、合理的理由があるのかを、例を挙げて説明せよ、というものだった。そしてある生徒が書いたエッセイの内容が、上のトーストの話だったのだ。・・・ちなみに、このトーストの話は、2013年の一橋大学の長文でも取り上げられていた(ソッドの法則と、名称は変わっていたが)。

 ある意味有名な話ではあるようだが、当時の私には新鮮で、印象深く、たわいない話ではあるのだが、感動さえ覚えた。と、このように、英語の入試長文や、模試の長文で、興味深い話、面白い小ネタに出くわすのは、楽しみの一つだ。社会の重大な問題や、最先端の科学ネタなども、もちろん興味をそそられるが、上のトーストの話のような、我々の生活に重大な影響は及ぼさず、カテゴリーもはっきりせず、他の教科でも、テレビニュースなどでも、取り上げにくいだろうなと思えるような小ネタが、一層好きだ。

 さて他に、英語長文から得た感動的な小ネタをいくつか挙げると、まずは、「常に絶対的方位を使う民族」の話がある。これは、2012年 成蹊大 文学部 第5問の長文で、テーマは、言語が空間や時間の認識にどう影響しているか、ということなのだが、その例として、オーストラリア先住民 アボリジニの一部の人たちが使う言語が挙げられている。そしてその言語では、常に絶対的方位を使うというのだ。

 絶対的方位とは、要するに東・西・南・北のことで、自分の位置や向きの影響を受けない。それと対照的なのが、前・後・左・右などの相対的方位で、自分の位置や向きによって言い方が変わる。我々は両方の方位を使い、大体において、大きな空間では絶対的方位、小さな空間では相対的方位、と使い分けている。前者の例は、「私の家は駅の南にある」、後者の例は、「カップはお皿の左にある」などだ。

 でも上述のアボリジニの人たちは、どんな時でも絶対的方位を使うため、「カップはお皿の南東にある」とか、「メアリーの南に立っている少年は私の兄です」などとなるのだ。当然こうした言い方ができるためには、方角が正確に分からなければならないため、アボリジニの人たちは方角の感覚が鋭くなっているようで、実際、5歳くらいの子供でも、北の方角をさすように求めると、正確に指さすことができるらしい。

 さらにこの話は、時間のことへと続いていく。

 例えば我々日本人が、何枚かの写真を起こった順に並べるよう求められたら、どのように並べるだろうか。通例、左から右へと並べるのではないだろうか。これは、通例人は時間的配列を文字を書いていく方向に合わせるからだそうだ。だから、英語が母国語の人に同じ作業を求めると、やはり左から右に並べる。でも、右から左に書くヘブライ語を話す人だと、右から左に並べるそうだ。

 では上述のアボリジニの人はどうするかと言うと、左から右でも、右から左でもなく、何と「東から西へ」並べるのだ! だから彼らに、南を向いて座ってもらって作業を頼むと、左から右に並べるし、東を向いて座ってもらうと、縦に自分の体に向かうように並べるのだ。

 いかがだろうか? ちょっと驚きではないだろうか? 驚きの話、興味深い話は色々あるが、このように、普遍的と考えて疑わなかったレベルのことが覆される、思いもよらぬものの見方に出くわすと、大いに興味をそそられるし、素朴にワクワクする。

 私がこの英文を知ったきっかけは、たまたまある生徒がこの成蹊大を受験するということで、私も予習のために解いてみた、ということなのだが、おかげで、こんな面白い英文に接することができて、生徒にも感謝だ。

 ちなみに、他に小ネタをあと2つほど取り上げようと思っていたのだが、この調子だと長くなりすぎるので、残りはまた日を改めて取り上げることにする。