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ある家庭教師の独り言

学力の二極化

 最近、学力低下に加えて、学力の二極化という問題をよく耳にする。できる人とできない人に二分され、中間層が減っているということだが、その中間層ができない側に回ってしまっていることが、特に問題視されている。

 この記事で扱っている学力の二極化は、主に私が仕事で接している生徒を念頭に置いたものなので 世間一般で言われているものよりも限定的かもしれないが、その原因の一つは、勉強が淡泊になってしまったこと、言いかえれば、できない人もできる人の勉強法をとるようになってしまったことだと思っている。

 この話を進めるにはまず、人には生まれ持った能力差があるという前提に立つ必要がある。あまり認めたくない話かもしれないが、現に、同じことを習得するにも、すぐできてしまう生徒もいるし、なかなかできない生徒もいる。私だって、他の人が難なく習得できたことを、苦労して習得したという経験を多くしている。やはり能力差はあると言わざるを得ない。

 ちなみにできる人の勉強法は、難問の上手い解法とか、入試過去問を含め、実戦的な問題をこなした分量などが、クローズアップされがちだ。単語や文法などの基本事項をこうやって必死に暗記しました、という声はあまり聞こえてこない。それは恐らく、できる人にとっては、そうした基本の暗記は苦労なくできてしまうか、あるいは、実戦問題をこなしながら上手く覚えるべきことも覚えていて、特に意識して何かを覚えたという感覚がないからではないかと思っている。

 ここで確認しておきたいのは、基本事項を暗記していないなら、実戦的な問題を行なっても意味がないということと、できる人は、意識的に暗記をした感覚がないにしても、覚えるべきことは覚えているということだ。これらのことを考慮せず、できない人が、できる人の表面的なことだけをとらえて、基本の暗記がままならないのに難問の解法を学んでも、あるいは、よくわからないまま過去問の数だけをこなしても意味はない。

 やはりできない人は、より正確に言えば、基本事項が暗記できていない人は、実戦問題には目もくれず(実戦問題と並行してでももちろんよいが)、そうしたことの暗記を徹底的に行なうべきなのだ。もちろん暗記できるまで。

 ところが時代が進むとともに、覚えるべきことは徹底して覚えるという骨太の勉強をする人が、だんだん減っている気がする。さらに言えば、ちょっと前までは、そうした勉強をしていないにしても、意志が弱くてできないだけで、大半の人はやらなければいけないのは分かっていたはずなのだが、今では、そもそも意識的に何かを覚えようという意思が希薄になっている、あるいはそうした世界観がなくなっている感がある。

 なぜこうしたことが起こったのだろうか。暗記に耐えうる忍耐力がなくなったのか、そしてそれゆえ、泥臭い勉強法ではなく、スマートで洗練された勉強法に飛びつきたくなるのか、面白い刺激的な情報があふれるようになり、元々面白味のない暗記作業が一層面白くなくなったのか、それとも自ら、暗記はできていると勘違いしているのか、色々と考えてみるが、はっきりしない。

 もちろん、ウチの生徒などを見ていても、まるで暗記をしない訳ではない。単語テスト等で、必要な暗記は課しているが、大体それはきちんとこなしてくれる。実は今の生徒は、総じて真面目になっているので、以前よりもむしろ指示にはよく従ってくれるくらいだ。ところが、例えば単語テストのついでに、以前覚えた単語を抜き打ちでチェックし、結構忘れていることが明らかになった場合、昔であれば、「あ、やばい、こんなに忘れているとは思わなかった、もっと復習にも力を入れます」みたいな反応が返ってきたものだが、今は「・・・」(無反応)とか、ただ一言「頑張ります」とか(何をどう頑張るのだ、とツッコみたくなる)、言葉には出さないものの、指定した範囲のテストはちゃんとできましたけど、みたいに、事の重大性を認識していない(orできない?)ような反応が返ってくる。このような意識では、本当の意味での暗記はできず、結局、意識改革が、問題解決の一番のポイントとなるのかもしれない。

 昔は英語の勉強と言えば、それはイコール暗記だった。教師に言われるまでもなく、生徒は皆そういう認識だった。覚えるべきことは、何度も反復してとことん覚えた。友達と暗記を競いあったりもした。とにかく暗記への意気込みが今とは違っていた。

 今の生徒も、昔のような勢いで暗記をすれば、もっと英語力があがるのに、と思える事例は結構ある。そもそも真面目に勉強をしているのに、最も大事なこと(つまり暗記)を軽視するなんてもったいない。

 とは言え、ウチの生徒を見ていても、根本的な意識改革はそう簡単ではない。でも真面目に勉強はしてくれるわけで、例えば単語で復習すべきことをズバリ指定したり、復習のサイクルを提示したりしながら、形式的でもよいから、以前のことも含めて暗記をするように仕向け、最終的には、自ら本当の意味での暗記の重要性を意識するに至り、それに基づいて自ら勉強してくれるようになってもらいたいと思っている。

 そして、何かの縁でこの記事を読み、思い当たる節がある方は、ぜひ本当の意味での暗記をしていただきたい。学力の二極化で、わざわざできない側に回らないためにも。